【映画】ロベール・ブレッソン『ラルジャン』(1983)

映画

こんにちは、みぎです。

ラルジャン 2Kレストア』を見てきました。

権威主義も極まってきましたね。

ロベール・ブレッソン傑作選」が今名古屋でもやってて嬉しい限りです。

第36回カンヌ国際映画祭で監督創造大賞を受賞しています。

Wikipedia情報ですが、大賞受賞を条件にカンヌに出品したとかなんとか…

(同時にタルコフスキーも『ノスタルジア』に賞を欲しがり監督創造大賞を受賞)。

映画は異常なまでにストイックなのに強欲なおじい様だ(公開時82歳)。

今だとSNSで叩かれそうだ。

ちなみにこれが遺作となっており、98歳まで生きたそうです(長生き!)。

『バルタザールどこへ行く』『少女ムシェット』『白夜』は見たことあるので、

『スリ』も見れたらなと思います。

「抵抗(レジスタンス) 死刑囚の手記より」「少女ムシェット」などの名作を残したフランスの名匠ロベール・ブレッソン監督の長編第13作。撮影時すでに80歳を超えていたブレッソンは1999年に他界し、本作が遺作となった。

原作はロシアの文豪トルストイの中編小説「にせ利札」。偶然手にしてしまった偽札を、そうとは知らずに使ってしまったことから、一家惨殺事件を引き起こし転落していく人生を歩む燃料配達人の青年イヴォンの姿を描いた。タイトルの「ラルジャン(L’argent)」は、フランス語でお金の意味。

1986年に日本初公開。2011年に、ブレッソンの名作をニュープリントで上映する「映画の國名作選III ロベール・ブレッソンの芸術」にてリバイバル。2026年には、ブレッソンの名作をレストア版で上映する「ロベール・ブレッソン傑作選」にて、2Kレストア版でリバイバル公開。

出典:映画.com「ラルジャン」

以下ネタバレ感想

いや~、邪悪な映画ですね…。

ロベール・ブレッソンの映画で

のほほんハッピーを想像していたわけではありませんが、

これまで見てきたブレッソン作品の中でも特に辛い映画でした。

見終わってから知ったのですが、

これはロシアの文豪レフ・トルストイの『にせ利札』を原作として

当時のフランスを舞台に映像化しているんですね。

文学には疎いのでトルストイは読んだことないのですが、

なんてひどい話を考えるのでしょう、あなたたちは。

どうも原作の半分までの映画化のようで、

そのせいで悲惨なまま終わるみたいです。

意地悪なのはブレッソンの方ということですね。

最初はお小遣いがもっと欲しい少年が

友人に唆されて偽札を使うといところから始まります。

映画を見ていくと、どうもこの少年たちは主人公ではないようです。

偽札をつかまされたカメラ屋さんは偽札をどうしようか考えます。

この人たちも主人公じゃないようです。

カメラ屋に集金に訪れたガソリン配達業者イヴォン

何も知らず偽札を受け取ってしまいます。

この人です。この人が主人公です。

割とすぐには登場せず、

しれっとババ抜きのババを引くように偽札を貰ってしまう男。

この映画は、何気ないところから不幸のどん底に突き落とされ

狂っていってしまうという内容ですが、

主人公が途中で出てくるというのも

「巻き込まれた」「特別でない市井の人」という印象を強めます。

そして気づかずカフェで偽札を使ってしまい、店員と揉み合いになり警察を呼ばれ…、

カメラ屋で貰ったと言ってもしらばっくれられ…、

裁判してもカメラ屋に敗訴して…、カフェには弁償しないといけないし、

ガソリン配達の仕事もクビになり…。

なんと可哀想な、普通に仕事でお金を受け取って、

カフェで食事しただけじゃないか…。

…でも、悲惨なのはこれだけではありません。

金に困り知人に頼ると、銀行強盗に加担させらることに…。

ついには捕まり懲役3年…!

こんなにひどいことはない…。

イヴォンは犯罪計画も知らず車を出しただけなのに…。

これだけではありません。

こんな状況になったのです。

刑務所にいるイヴォンと妻のエリーズは関係が悪くなっていきます。

手紙が来なくなり、届かなくなり、

やっと来た手紙には幼い娘の死が記されていたのです。

酷すぎる

あまりの悲惨な出来事の連続にイヴォンは自殺未遂を起こしてしまうのです。

この映画、ここまでなら主人公イヴォンがひたすらに悲惨な目に遭う話なのですが、

後半は様相が変わっていきます。

この映画は出来心で偽札を使ってしまった少年に始まり、

自分は損はしたくないからと他人に偽札を押し付けることにしたカメラ屋の主人も、

偽札を受け取ってしまった主人公イヴォンもみんな根っからの極悪人ではありません。

正しい行いができないこともありますが、

軽い気持ちで犯罪に加担していってしまうのが、犯罪というものがありふれていて

より身近で恐ろしく感じます。

ただ、この映画にちゃんと極悪人が登場します。

カメラ屋で働いていたリュシアンです。

こいつは恐ろしい。

偽札を実際にイヴォンに渡した上で警察の聞き取りでも

裁判でも見事にすっとぼけることができる奴です。

そしてカメラ屋の売上を抜き取りクビに、

からのカメラ屋に盗みに入る、

そしてATMに細工をして現金を得る…。

犯罪三昧じゃないか…。

そんなリュシアンもついには捕まり(反省の色なし)、

主人公イヴォンと同じ刑務所に入ります。

イヴォンの境遇に流石に同情と責任を感じているのか

「自分と一緒に脱獄しよう」なんて吹き込んでくる始末。

結局、リュシアンと交流することなくイヴォンは刑期を終えて出所します。

ただ、あまりに悲惨なことが続いたためかイヴォンは変わってしまいます。

出所してすぐで仕事も行く宛てもなく、小さなホテルに行きます。

そしてホテルの従業員家族を惨殺するのです。

まるでリュシアンから悪意が伝染したかのように、

主体的に犯罪を犯す側へと変わってしまいます。

これまで自分の意思や主体性と関係なく

犯罪に巻き込まれていたイヴォンは、

劇中でも登場してこなかったはっきりとした暴力行為を犯す人間へと変わったのです。

そして銀行から出てきた老婦人に目をつけ、

老婦人の家に身を隠します。

老婦人は家事全般だけでなく、

体の不自由な子供の世話をして、

隠居した夫に暴力を振るわれています。

しばらくこの家で暮らしながらその様子を見守るイヴォン。

最後、ついには家族を斧で襲い、金を奪おうとします。

金を得ることもできず、一家を惨殺し老婦人の家を後にします。

老婦人との交流から得たものは改心や希望だったのか、

絶望だったのか。

そして酒場で酒を飲んだ後、警察に自首をする…。

原作ではこの後に改心する話がもっと続くようなのですが、

本作ではイヴォンの手を血に染めて終わります。

原作にあったはずの希望のある展開も捨て、

最初から最後まで一切容赦なく救いというもの持たせません。

わざわざ原作よりも邪悪なものにするブレッソンが一番怖いです。

この映画、ブレッソンの他作品に通じることなのですが、

劇伴もなく、役者は台本に従って演技をして、豊かな感情表現もありません。

犯罪に巻き込まれていく様もまるで敷かれたレールに沿って進むようです。

ドラマチックさを廃し、最小限の要素で成り立っています。

それが主人公イヴォンの陥っていく不条理の窮屈さ、

世の中の融通の利かなさを強調させます。

暴力行為はむしろ画面にほとんど映らず、

血と死体だけ映ります。

過剰に盛り上げることなく起きた結果だけ映る。

そのせいでまるで暴力行為が日常に組み込まれていて当たり前のようにすら感じます。

極端な引き算は現実的な窮屈さと別の世界を同時に見せてくれているようで本当に恐ろしいです。

これを成し遂げるブレッソンのストイックさが怖い…。

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