こんにちは、みぎです。
『レディ・マクベス』(2016年)を見ました。
特にシェイクスピアの『マクベス』とは関係ないんですね。
フローレンス・ピュー演じる主人公キャサリンが
マクベス夫人のようだ、というような意味合いですね。
ジョエル・コーエンの『マクベス』(2021年)や
黒澤明の『蜘蛛の巣城』(1957年)は見てるけど
マクベス夫人はどんなだったかあまり覚えてませんが、
マクベスをそそのかす強い野心を持った「悪女」というキャラクターです。
「ミッドサマー」「ストーリー・オブ・マイライフ わたしの若草物語」のフローレンス・ピューが2016年に映画初主演を務めた文芸ドラマ。ロシアの作家ニコライ・レスコフの小説「ムツェンスク郡のマクベス夫人」を映画化した。19世紀後半のイギリス。17歳のキャサリンは裕福な商家に嫁ぐが、年の離れた夫は彼女に興味を示さず、体の関係を持たない。意地悪な舅からは外出を禁じられ、人里離れた屋敷で退屈な日々を過ごしていた。そんなある日、キャサリンは夫の留守中に若い使用人セバスチャンに誘惑され、不倫関係となる。欲望を抑えきれなくなった彼女は、驚くべき行動に出る。舞台演出家ウィリアム・オルドロイドの長編監督デビュー作。「のむコレ2020」(20年10月9日~/東京・シネマート新宿、大阪・シネマート心斎橋)上映作品。
出典:映画.com「レディ・マクベス」
以下、ネタバレ感想(別作品の展開に触れることもあります)
お、おもしれ~…
資産家に嫁いだキャサリン(フローレンス・ピュー)は
夫に愛されてもらえず、
義父には「妻の勤めを果たせ」とキモいこと言われ
メイドのアンナ(ナオミ・アッキー)からの監視と軟禁。
キャサリン(フローレンス・ピュー)は裕福な家の出身ではないようで、
義父に買われて嫁に来たようです。
求められることは、愛想の良いお人形さんで
夜の相手で、後継者を作る子を産む機械。
それ以外は家から出るな。
最悪な世界。
どんな世界だよ。
19世紀イギリスの田舎です。
嫁入り早々きめえなぁと思ってたら、
鉱山が爆発したとかなんとかで、
夫も義父も長い期間家を留守にします。
でも義父から言い付けられたメイドからの監視は緩まず、
不自由な日々。
そこに新しく入った使用人のセバスチャン(コズモ・ジャービス)たちが
メイドのアンナ(ナオミ・アッキー)に性的いやがらせをしているところに遭遇。
最初は制止するも、
夫のいない抑圧された日々を送るキャサリン(フローレンス・ピュー)は
半ば流されるように肉体関係を持つようになります。
夫がなかなか帰ってこないのをいいことにふたりの関係は続き、
屋敷ではみんながこのことを知っているような状態になります。
そして先に帰ってきた義父はそれを聞きつけ、
セバスチャン(コズモ・ジャービス)を折檻し監禁。
ふたりは引き離されました。
ここまでは抑圧された女性の日々と一時の過ちを描く話として描かれています。
ここから「レディ・マクベス」へと変わっていきます。
自分を縛り付け、愛するセバスチャン(コズモ・ジャービス)を引き離す
義父に毒キノコを盛り殺害します。
この描写がすごいです。
機嫌を損ねてダイニングではなく食器を持って奥の部屋へ移動した義父、
キャサリン(フローレンス・ピュー)はしまったドアに椅子を立てかけ内側から開かないようにします。
義父が毒キノコを喰らいもがき苦しむ音が聞こえてくるも、
メイドのアンナ(ナオミ・アッキー)にはそこから動かないように命令します。
扉の向こうで異常が起きているにもかかわらず確かめることを禁じられる。
そしてやはり義父は亡くなってしまいます。
目の前で人が亡くなり助けられなかったアンナ(ナオミ・アッキー)は
ショックで声を発せられなくなります。
そこからはまたセバスチャン(コズモ・ジャービス)と愛し合う日々です。
夫は義父と仲が悪く葬儀にもやってきません。
キャサリン(フローレンス・ピュー)を愛さなかったのも
義父が選んだ嫁だということもあるのでしょう。
そして突然の夫の帰宅。
夜中にセバスチャン(コズモ・ジャービス)と寝ていた
キャサリン(フローレンス・ピュー)はなんとか取り繕いますが、
隠すも何も二人の噂は隣町まで知れ渡っていたというのです。
それを聞かされたキャサリン(フローレンス・ピュー)は挑発するかのように
夫の目の前でセバスチャン(コズモ・ジャービス)と愛し合う様子を再現します。
そして激昂した夫を二人で殺します。
主にキャサリン(フローレンス・ピュー)がやります。
元々度胸のあったキャサリン(フローレンス・ピュー)ですが、
義父に手をかけてから、
いや、抑圧のある家よりも快楽を共にできるセバスチャン(コズモ・ジャービス)を選んでから
覚悟が決まりきっています。
夫が死んだことは公にしていませんが、
もうこの屋敷では二人の天下です。
誰も二人を縛り付けておくことはできません。
ただベッドの上で過ごす日々。
セバスチャン(コズモ・ジャービス)をこの屋敷の主人にしてしまえばいい、
なんて夢見てしまいます。
そこに夫の幼い婚外子テディがやってきます。
後見人であるテディの祖母も一緒に。
二人の短い天下も終わり、
屋敷は全くよく知らない少年テディのものになります。
ここですごくキモいのが、
テディが祖母に「この人(キャサリン)、綺麗だね」と耳打ちするところ。
あってもなくても物語上特に関係ない程度のセリフですが、
新しい家と知らない人たちを前に恥ずかしがって何も喋らなかった子供が
やっと発した言葉が女性の容姿を批評する言葉。
ただ素直な感想と言えばそうかもしれないが、
10歳も行かないよう子供にしてもう女性をモノとして扱うような感覚を持っているようにも見えます。
セバスチャン(コズモ・ジャービス)は仮初めの主人から使用人に戻り、
二人の関係も終わります。
キャサリン(フローレンス・ピュー)は広い部屋を失い、
テディの遊び相手にならざるを得ない日々。
義父や夫こそいないものの自由でない日々に逆戻り。
さらにおそらくはセバスチャン(コズモ・ジャービス)との間に子供ができてしまった様子。
この状況をなんとかしないと。
そして森で迷子になるテディ。
滝で溺れていたテディを介抱する面々。
疲れ切ったテディの祖母を言葉巧みに休ませ、
セバスチャン(コズモ・ジャービス)を言いくるめ、
ついにはキャサリン(フローレンス・ピュー)は小さい子供に手をかける。
欲望に忠実なだけのセバスチャン(コズモ・ジャービス)は
なんの恨みもないテディを殺したことに耐えきれず、
みんなの前でことの全てを暴露します。
しかし、キャサリン(フローレンス・ピュー)は
セバスチャン(コズモ・ジャービス)とアンナ(ナオミ・アッキー)が全ての共犯で
自分はやっていなとでっちあげる。
急に現れた使用人の言葉は信じてもらえず、
声の出せないアンナ(ナオミ・アッキー)は反論できず、
二人は連行される。
罪を逃れたキャサリン(フローレンス・ピュー)を縛るものはいない。
屋敷からは人がいなくなり、
キャサリン(フローレンス・ピュー)だけの屋敷。
いつものようにソファーに座る。
抑圧からの脱出の先には何も待っていなかった。
この映画、単に男からの抑圧に苦しむ可哀想な女性が
自らの自由のために戦っていくという話ではないんですね。
もちろん最初こそそういうところはあるのですが、
彼女を動かすのが自由への渇望だけでなく
はっきりと欲望と野心があるからです。
おそらくキャサリン(フローレンス・ピュー)は
セバスチャン(コズモ・ジャービス)を必ずしも愛しているわけではないのでしょう。
セバスチャン(コズモ・ジャービス)は
夫が満たしてくれなかった肉体的な欲を満たしくれる相手なのです。
この映画にはそういう意味で恋愛が全然登場しません。
自由恋愛の時代ではないのでそういうものかもしれません。
少年テディを手に掛けるのはもはや自身の抑圧からの解放などと呼べるものでもなく
とてもショックなシーンです。
このあたりで思い出した映画が2本あります。
一つはジェーン・カンピオン監督作『ピアノ・レッスン』(1993年)。
この映画のホリー・ハンターは容姿を気に入られサム・ニールと結婚します。
しかし肉体的な欲望を満たしてくれたのは夫ではなく
粗暴なハーヴェイ・カイテルで次第に愛し合うようになります。
声が発せないことや私生児など共通したモチーフも登場します。
もう一つはシャンタル・アケルマン監督作
『ジャンヌ・ディエルマン ブリュッセル1080、コメルス河畔通り23番地』(1975年)です。
こちらも男性社会の抑圧の日々を描いた映画で、
最終的に主人公デルフィーヌ・セリッグはある男を手にかけ終わります。
この映画は近年特に評価が高まっている1本ですが、
スローシネマの代表的な映画でもあります。
スローシネマは固定カメラでじっくり捉えた映像と、
少ない音楽で語れる映画のムーブメントですが、
本作もその要素があります。
そして『ジャンヌ・ディエルマン』の日々のルーティンと
キャサリン(フローレンス・ピュー)がソファーに座るルーティンも重ねてきているように思えました。
これらの作品は男性社会という仕組みの被害者を描いています。
『レディ・マクベス』は原作があるので
どこまでこれらに影響を受けたかはわかりませんが過去の映画からの息吹を感じました。
フローレンス・ピュー、コズモ・ジャービス、ナオミ・アッキーと
今をときめく俳優たちのキャリア初期に撮られた本作。
特にフローレンス・ピューは公開当時20歳ながら
これだけの演技をしたのですから今の大活躍も頷けます。
低い声が本当にいいですよね。
今後も超大作だけでなくこういうタイプの映画に出てくれたらなぁ…。
ウィリアム・オルドロイド監督も要注目ですね!

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